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福岡高等裁判所宮崎支部 昭和43年(ネ)153号 判決

主文

原判決を取り消す。

被控訴人の請求を棄却する。

訴訟費用は第一、二審共被控訴人の負担とする。

事実

控訴人ら代理人は主文同旨の判決を求め、被控訴代理人は「本件控訴を棄却する。控訴費用は控訴人らの負担とする。」旨の判決を求めた。

当事者双方の主張と立証は、左記のほかは原判決事実摘示のとおりであるから、これを引用する。但し、原判決四枚目裏一二行「大楽清一」とあるは「大楽清治」と訂正する。

一、控訴人ら代理人は次のとおり述べた。

被控訴人所論の被控訴人と訴外荒武禎年間の訴訟の控訴審は昭和四〇年九月二七日口頭弁論を終結したものであるところ、控訴人有村は、それ以前に本件土地建物につき所有権を譲り受け、昭和三八年三月一九日に所有権移転登記手続を経由し、その余の控訴人らは控訴人有村の登記に基づき同人から右各不動産につき抵当権又は根抵当権の設定を受け、その旨の登記手続を了したのである。従つて、控訴人らは何れも前示訴訟の口頭弁論終結後の承継人にあたらないから、昭和四一年一月三一日確定した右事件の判決の既判力は控訴人らに及ぶものではない。

証拠(省略)

理由

一、原判決添付第一目録記載の土地、建物(以下本件土地、建物という)がもと被控訴人の所有であり、これにつき昭和三〇年四月一六日締結された売買を原因として被控訴人から訴外荒武禎年に所有権移転登記がなされ、次いで昭和三八年三月一九日売買を原因として右荒武より控訴人有村多恵に所有権移転登記がなされていること、更に、右土地、建物につき昭和四〇年一二月一三日控訴人有村の債務を但保するために、控訴人今村尚子に対し抵当権設定登記がなされ、同月二四日訴外荒武の債務を担保するために、控訴人鹿児島市農業協同組合に対し根抵当権設定登記がされていることは何れも当事者間に争いがない。

二、控訴人らは、訴外荒武禎年は昭和三〇年四月一六日被控訴人ないし被控訴人を代理する訴外椎原武法から本件土地、建物を買い受けた旨を主張する(弁論の全趣旨によりかかる主張があるものと解される。)のに対し、被控訴人はこれを争い、右は被控訴人の子である椎原武法が被控訴人の印鑑を冒用して荒武に売り渡し、擅に移転登記手続をなしたものである旨主張するので、以下この点について判断する。

成立に争いない乙第三、第二六号証、第二八号証の一、二、第三六、三七、四二、四三、四六、五一、五二号証、原審及び当審証人浜田重治、同荒武禎年の各証言によつて成立の認められる乙第一、二号証、原審証人川野正一の証言によつて成立の認められる乙第四号証に以上の各証言、原審及び当審における有村多恵控訴本人尋問、原審鑑定の各結果を総合すると次の事実が認められる。すなわち、昭和三〇年三月中旬頃、荒武禎年は浜田重治の紹介で被控訴人の子、椎原武法(昭和五年一月五日生)から本件土地、建物を含む被控訴人所有の不動産(原判決添付第一、第二目録記載の土地及び建物)を担保とする金融の申込を受けたが、何分その所在が荒武の居住する鹿児島市から遠く離れた姶良郡牧園町にあつたため、一旦はこれを断つていたところ、更に右不動産を売却してもよいという武法のたつての希望もあつたので、同年四月八日頃、浜田と共に牧園町に所有者たる被控訴人を訪ね、その案内で本件土地、建物を実地に見分し、その処分方については一切を武法に一任してある旨の被控訴人の言質を得たうえで、なおも検討と接衝を重ねた。かくして、同月中旬頃に至つて、これらを代金一二五万円で買い受けることに略々話がまとまつたので、当時荒武が経営していた鹿児島市易居町桟橋通所在の桟橋質屋に被控訴人にも来て貰い、代金の授受や登記手続等の一切は武法に一任してある旨の被控訴人の売買の意思を改めて確認したうえ、両者間に正式に売買契約を締結して乙第二号証の不動産売買契約書に署名捺印し、併せて、被控訴人は爾後の諸手続の一切につき武法を代理人として行わしめる旨の「承認書」と題する書面(乙第一号証)を作成して荒武に交付した。そして、その後、被控訴人を適法に代理する武法は、本件土地建物につき司法書士川野正一に荒武のために所有権移転登記手続をなすことを委任し、該手続を経由した後、荒武との間に代金の調整授受を終えたものである。以上の認定に反する甲第二ないし第六号証の記載は何れも措信しがたく、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。そうすると、荒武は被控訴人との本件土地、建物の売買により、適法にその所有権を取得したものというべきである。なお、右認定に供した証拠につき若干付言するに、被控訴人は前示乙第二号証の成立を争うのであるが、原審における鑑定人池田秀夫鑑定の結果によれば、同号証の売主欄の被控訴人の署名と、被控訴人がその成立を争わない乙第二六号証、第二八号証の一、二、第四六号証の被控訴人名の記載とは同一人の筆跡であるというのであり、右乙第二号証を除くその余の乙号証の被控訴人名が同人により記載されたことは弁論の全趣旨により明らかであるから、右乙第二号証の被控訴人の署名も同人によつて記載されたものというの外はなく、特段の事情のない限り、同号証が被控訴人の意思によつて作成されたと認めるのが相当である。そうすれば、同書証は前示のとおり、被控訴人と荒武間の右売買契約を認定するうえに有力な資料たりうるものである。

三、ところで、成立に争いない甲第一号証の一及び二によれば、被控訴人と荒武との間に於ては昭和四〇年一一月一〇日当庁昭和三九年(ネ)第二〇号土地並びに家屋引渡請求(本訴)、所有権移転登記抹消登記手続請求(反訴)控訴事件で、前示売買契約は武法の無権代理によるものであることを理由に無効であることが確認され、反訴被告荒武の本件不動産に関する所有権移転登記の抹消登記手続をなすべき旨の判決が云い渡され、この判決は昭和四一年二月一〇日確定していることが明らかであり、右事件と本件とは如何なる関係にたつかが一応問題となる。然るところ、右両事件は形式上訴訟当事者を異にするものであり、原審及び当審証人荒武禎年の証言、有村多恵控訴本人尋問の結果によれば、控訴人有村はもと荒武の妻であつたが、昭和三八年三月一九日同人と離婚した際に本件土地、建物の贈与を受け(その性質は離婚に際しての財産分与であつたと推認される。)、これに基づいて控訴人有村に本件移転登記手続がなされたことが認められるのであるから、右荒武と控訴人有村間の本件土地、建物に関する承継は、前示訴訟の口頭弁論終結日(昭和四〇年九月二七日であることについては被控訴人の明らかに争わないところである。)以前であることは明らかであつて、右判決の既判力が本件において控訴人有村に及ぶべき理由はない。そして、当裁判所は本件においては前認定のとおり、被控訴人と荒武との売買契約の効力につき前示判決とその判断を異にし、これを有効と解するものであるから、控訴人有村の有する本件土地、建物に対する所有権移転登記は実体関係に符合するものというべく、これが無効であることを前提とする被控訴人の控訴人有村に対する本訴請求は、前判決の前示帰すうにも拘らず、これを認容しがたいものといわなければならない。また、その余の控訴人らの有する抵当権ないし根抵当権設定登記は、何れも控訴人有村の有効な所有権移転登記に基づいて適法になされたものと推認されるので、控訴人有村に対する本訴請求がその理由がない以上、爾余の控訴人らに対する本訴請求もまたこれを認容するに由なきものというべきである。そうすると、被控訴人の本訴請求は何れもその理由がないからこれを棄却すべく、これと判断を異にする原判決を取り消すこととし、民訴法三八六条、八九条、九五条、九六条を適用して主文のとおり判決する。

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